オゾンは、新型コロナウイルスを殺菌する能力が証明されたことで、すっかり「コロナ対策ツール」とみなされるようになりました。
しかしオゾンは、コロナ禍のはるか前から、知る人ぞ知る場所で活躍しています。
トイレを自動殺菌するオゾン、魚の養殖場を殺菌するオゾン、製紙工場で原料を漂白するオゾン、病院の安全性を高めるオゾンなど、さまざまな場所で使われています。オゾンは「キレイにする能力」に定評があったから、コロナ禍が発生してすぐに活躍することができたのです。
もくじ
パナソニックのオゾン水トイレ

出典:https://sumai.panasonic.jp/toilet/alauno/feature/detail.php?id=ozon-water
オゾン水とは、気体のオゾンを水に溶かしたものです。
使う直前にオゾン水をつくっている
アラウーノのオゾン水生成器は、トイレと一体になった機械のなかに入っているので、外からはみえません。
オゾン水生成器に水を送り、その水に高電圧をかけてオゾンを発生させます。発生したオゾンが水と混ざり、オゾン水ができます。便器内に自動散布されるオゾン水は、散布される直前につくるので常にできたてです。
オゾン水は、時間が経つとなかのオゾンが酸素になり、ただの水になってしまうので、鮮度が重要です。パナソニックは、オゾン水によって、便器内のピンク汚れや黒カビを抑制できるとしています。
*1:https://sumai.panasonic.jp/toilet/alauno/feature/detail.php?id=ozon-water
エビデンスをしっかり確保している
パナソニックはオゾン水トイレの性能の評価を、大阪府立大学に依頼しました。試験片に菌をつけて、オゾン水トイレで30秒洗浄したところ、菌を99%抑制できました。アラウーノはエビデンス(科学的根拠)がある製品といえます。
安全性をしっかり確保
オゾンは高い殺菌力を持つため、高濃度オゾンは人の健康を害することがあります。
そこでアラウーノは、人がトイレから離れたことをセンサーで検知して、その3分後に自動でトイレのふたを閉めてから、オゾン水を散布するようにしました。これなら、オゾン水のなかのオゾンが個室内に浮遊することはありません。また、オゾン水は、1日3回しか出ないようにしています。トイレを使ったら毎回出るわけではありません。
魚の養殖の課題をオゾンが解決
魚の養殖は、安全、美味、新鮮、安価、安定供給、自然への低負荷を実現した、とてもすぐれた食事業です。ただ、魚の養殖は簡単な事業ではありません。なぜなら、これらのメリットを実現するには、大量の魚を狭い場所で育てなければならないからです。
養殖場で細菌やウイルスが発生すると、感染が一気に広がってしまいます。そこで養殖業では、長くオゾンが使われてきました(*2、3)。
*2:https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/39526/4/yoshimizu-111.pdf
*3:https://www.jstage.jst.go.jp/article/aquaculturesci1953/44/4/44_4_457/_article/-char/ja/
養殖業における殺菌の重要性
養殖場には、細菌やウイルスなどの病原体に狙われる隙がいくつも存在します。
養殖では、卵から稚魚にして成魚にするので、卵を採るための親魚が必要になります。親魚が病原体を持っていないか、既往病歴はないかといった健康チェックが必要になります。
卵から健康な稚魚をかえすために、卵を消毒する必要があります。稚魚が健康に育つには、飼育用水を殺菌しなければなりません。
さらに養殖場全体の消毒や、病原体が侵入しない体制づくりも構築しなければなりません。
病原体が、海や川などでの漁業でそれほど問題にならないのは、健康な魚を獲るだけで完結するからです。
ところが養殖事業では、卵と稚魚と成魚を可能な限り多く生産しないと安価と安定供給を実現できません。安価で安定供給できない養殖場は、海での漁業に勝てません。
したがって、卵と稚魚と成魚の健康を維持する消毒殺菌は、養殖業にとって死活問題になります。
オゾン養殖の成果
オゾンを使った魚の養殖は、目覚ましい成果を挙げています。
福島県郡山市で、トラフグの陸上養殖を行っている業者が、循環水の殺菌にオゾンを使っています(*4)。陸上養殖は、海や川、湖から離れた場所で行う養殖のことで、水を循環させて使います。
このトラフグ養殖場では循環水内の細菌の数を計測しているのですが、オゾンを使ってから減りました。また、循環回数が増えると茶色くなっていた水が、オゾンを使ってから透明を維持できるようになりました。
山梨県富士川町の養殖業者は、マス、ヤマメ、イワナを育てています。ここでは1993年からオゾンで飼育水を殺菌しています(*5、6)。何度もテレビで紹介されるほど有名な養殖場ですが、家族5人で運営できています。オゾンで効率的に衛生管理できていることも、少人数で質の高い川魚を生産する秘訣になっています。
日本人が食べているカキのほとんどは養殖ものです(*7)。しかしカキの養殖場は常に、レジオネラ菌、ノロウィルス、クリプトスポリジウム、大腸菌などの脅威にさらされています。それでカキの養殖場は殺菌を徹底しています。
あるカキ養殖場は、紫外線と塩素水で飼育水を殺菌することにしましたが、カキの身まで殺菌できず、またカキの味が落ちたり身の色が変化したりといった問題も抱えていました。そこでオゾン殺菌に切り替えたところ、殺菌効果が上がり、なおかつ味や色の変化もなくなりました(*8)。
*4:https://www.ecodesign-labo.jp/interview/nonbirionsen/
*5:http://www.ninzawa.jp/
*6:http://www.ninzawa.jp/important
*7:https://www.maff.go.jp/j/heya/sodan/1510/01.html
*8:http://www.teco.co.jp/wp/category/case/zirei_place/fishery/oyster
日本製紙はオゾンでパルプを漂白「ダイオキシンを出さない工場に」

出典:https://www.nipponpapergroup.com/
紙は木や古紙に含まれる繊維でつくります。
木でつくるときは、間伐材などを砕いた木材チップを高温高圧で煮て繊維を取り出します。古紙でつくるときは、インクを取り除いたりしたあとに、繊維を取り出します。それらの繊維を洗浄したものがパルプです。パルプは茶色なので、これを漂白して白くしなければなりません。
日本製紙は従来、塩素を使ってパルプを漂白していました。塩素を大量に使うとダイオキシンが発生してしまいますが、AOXの値が1.5kg/パルプt以下なら、ダイオキシンは発生しません。それで日本製紙は、塩素を使いながらAOX値1.5kg/パルプt以下で操業していました。
しかし欧米では塩素を使わない漂白が普及し始めていたことから、日本製紙は塩素の代わりにオゾンを使うことにしました。同社は工場内に大量のオゾンをつくるオゾン製造プラントを新設しました。
その結果、AOX値はほぼゼロになり、よりダイオキシンが発生しにくい工場にすることに成功しました。
*9:https://www.nipponpapergroup.com/news/news00020401.html
ゴミ箱のふたにつけるオゾン発生器

出典:https://www.maxell.jp/consumer/mxap-ars51.html
オゾネオ・スティックは、空気中の酸素を取り込んで電気刺激を与えてオゾンをつくり、ゴミ箱のなかを除菌して、臭いを減らします。オゾネオ・スティックは試験で、細菌を24時間で50万分の1まで減らし、臭気強度を24時間で4から2.5にまで減らしました(*11)。
同じ実験でオゾネオ・スティックを使わなかった場合、細菌は24時間で10分の1程度までしか減らず、臭気強度は24時間で4から3.5にまでしか低下しませんでした。
臭気強度4は「強い臭い」で、3は「楽に感知できる臭い」、2は「何の臭いかわかる弱い臭い」と評価されています。オゾネオ・スティックは単3乾電池4本で1カ月半稼働します。
*10:https://www.maxell.jp/consumer/mxap-ars51.html
*11:https://www.maxell.jp/consumer/mxap-ars51_01.html
病院を丸ごとオゾン殺菌する
ロケットなどをつくっているIHIの関係会社にIHIアグリテックがあり、同社は病院を丸ごとオゾン殺菌しようと考えました(*12)。
IHIアグリテックの「リモコン式天井取付脱臭装置 eZ-7」は、天井にオゾン発生器を取りつける装置で、病室や診察室などの空間を上から殺菌します。
「オゾンエアクリア eZ-100」は、移動式のオゾン発生器で、待合室や病室など、必要に応じて殺菌できます。
「オゾンリネン消毒庫 OR-5V」は、密閉式の倉庫で、このなかに使用済みリネンを入れて、オゾン燻蒸します。
「オゾン水内視鏡消毒機OED-1000S Plus」は、胃カメラ検査や大腸カメラ検査で使う内視鏡を消毒する機器です。
「オゾンUVエアクリア OUV-I」は、車載用オゾン発生器で、救急車内を殺菌します。
救急車を殺菌するオゾン発生器は、環境機器メーカーの荏原実業が「EFD-200」という製品を販売しています(*13)。
オゾン発生器メーカーのタムラテコは、オゾン発生器と高気密テントをセットにした商品は販売しています(*14)。高気密テントのなかに医療従事者の感染防止衣や再利用するマスクを入れ、オゾンで満たして燻蒸します。
*12:https://www.ihi.co.jp/iat/shibaura/ozone/example/hospital.html
*13:https://www.ej-protect.jp/products/efd-200/
*14:http://www.teco.co.jp/wp/topix/6259
食品工場を丸ごとオゾン殺菌する
制御機器メーカーのワコーシステムコントロールは、食品工場を丸ごとオゾン殺菌するシステムを提供しています(*15)。
食品工場に大型のオゾン発生器を設置し、そこから配管して、作業場の天井からオゾンが噴出するようにします。
また、そのオゾン発生器でつくったオゾンを水と混ぜてオゾン水をつくり、これを作業場で使えるようにします。こうすることで、食材をオゾン水で洗うことができます。これにより、食品工場独特の臭いを抑制したり、空気中に浮遊する微生物を減らしたりすることができます。
*15:http://www.wako-system.co.jp/003.html
半導体の品質を支えるオゾン
オゾンは、半導体の品質を高めることにも役立っています。
半導体は、チリひとつないクリーンルームでつくる必要があります。それは、きれいに感じられる空気でも、浮遊微小粒子や浮遊微生物が飛んでいて、これらの粒子や微生物が半導体の回路に落ちるとショートを起してしまうからです(*16)。クリーンルームのクリーンさが、不良品の発生率に大きく影響します。
クリーンルームは、空間を密閉して、フィルターを介してきれいな空気だけを入れ、室内の空気を床に押し付けて排気口から空気を出します。
それでも粒子や微生物が邪魔をするとき、シリコンウエハをオゾン水で洗うことがあります(*17)。シリコンウエハは、半導体の材料です。シリコンウエハをオゾン水で洗うと、シリコンウエハに酸化膜という膜ができます。粒子や微生物が酸化膜の上に付着するので、フッ酸水で酸化膜を洗い流すと、粒子や微生物も一緒に除去できます。
*16:https://www.matsusada.co.jp/column/clean.html
*17:https://www.mtk-2.com/product-info/ozone_supplement.html
まとめ~オゾンは信頼されていた
オゾンは、コロナ禍が始まってすぐに殺菌ツールとして利用されました。それは、研究者たちがいち早く、オゾンにコロナを死滅させる能力があることを証明したからです。
では、なぜ研究者たちは、いち早くオゾンに注目したのでしょうか。
それはオゾンの殺菌能力に定評があったからです。オゾンは以前から、トイレや魚の養殖場やパルプやゴミ箱や病院や食品工場や半導体材料をキレイにしたり消臭したりしてきました。その実績があったからこそ、コロナ禍が発生したときに多くの人が「オゾンが効くはずだ」と思ったわけです。