新型コロナウイルス問題を受け、殺菌剤に注目が集まっています。
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液は、どちらも殺菌剤として使われるうえに名称が似ていますが、まったくの別物です。
殺菌作用がマイルドな次亜塩素酸水を使うつもりで、塩素が濃い次亜塩素酸ナトリウムを使ってしまうと、健康被害を引き起こすかもしれません。
両者の特性と違いを解説します。
もくじ
「このことだけ」は押さえておいて
化学的な性質などの詳しい解説は後段に譲り、まずは、殺菌の業務をする人が絶対に間違ってはならない「次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液の違い」について紹介します。
次亜塩素酸水(酸性電解水と呼ぶメーカーもある) | 次亜塩素酸ナトリウム液 | |
大雑把な把握 | 危険度が低い | 危険、ハイターやブリーチの主成分 |
安全性 | 手指の殺菌に使う | 人の体に触れないようにする |
手荒れ | 少ない | 多い |
化学的性状 | 酸性、pHは2.2~6.5 | アルカリ性、pHは7.5超 |
「次亜塩素酸ナトリウムは危険、手指を洗うときに使うこともNG、とにかく皮膚に触れないこと」と覚えておいて下さい。
厚生労働省は、新型コロナ予防では、次亜塩素酸ナトリウムを0.05%にまで薄めて、ドアノブやベッドの柵などの「部品」に使うよう呼び掛けています(*1)。
「0.05%」などの濃度の求め方は、あとで解説します。
アルコールと同じように手指洗浄に使ってよいのは、次亜塩素酸水です。
相模原市(神奈川県)や御所市(奈良県)などの地方自治体は、市販のアルコール消毒液が品薄になっていることから、次亜塩素酸水を無償で配布しています(2020年5月現在、*2、3)。
相模原市は次亜塩素酸水について、「安全性の高い除菌水」「手洗いや食器などの洗浄ができる」と説明しています。
殺菌剤メーカーは、両者の混同を避けるため、次亜塩素酸水のことを「酸性電解水」と呼んでいます。
そして、次亜塩素酸水は酸性で、次亜塩素酸ナトリウム液はアルカリ性です。
化学的な性質は真逆です。
*1:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00009.html
*2:https://www.city.sagamihara.kanagawa.jp/kurashi/kenko/kansenyobo/1019910/1020087.html
*3:https://www.city.gose.nara.jp/0000002758.html
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液の殺菌効果
次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液の殺菌効果を紹介します(*4、5)。
次亜塩素酸水で除菌できる微生物(細菌やウイルスなど)は次のとおりです。
- 黄色ブドウ球菌
- MRSA
- セレウス菌
- サルモネラ
- 腸炎ビブリオ
- 腸管出血性大腸菌
- カンピロバクター菌
- ノロウイルス
- インフルエンザウイルス
- カンジタ
- 黒カビ(アスベルギルス)
- 青カビ(ペニシリウム)
かなり広範囲に有害微生物を退治できることがわかります。
次亜塩素酸ナトリウム液も、ほぼ同じ微生物を殺菌できますが、「インフルエンザ」への効果は次亜塩素酸水より劣ります。
また、「黒カビ」「青カビ」への効果は、次亜塩素酸ナトリウム液にはありません。
危険度が高い次亜塩素酸ナトリウム液が、一部の微生物への効果で、次亜塩素酸水より劣ってしまうのは、次亜塩素酸(HClO)の濃度が低いからです。
*4:https://www.kyowairyo.co.jp/elbeeno.html
*5:https://www.oote-itsuki.com/about_jiasui.html
もう少し詳しい両者の違い
さらに踏み込んで、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液の違いを明らかにしていきます。
次亜塩素酸水 | 次亜塩素酸ナトリウム液 | |
化学式 | HClO | NaClO |
主成分 | 次亜塩素酸(HClO)と塩素(Cl2) | 水酸化ナトリウム(NaOH)と塩素(Cl2) |
塩素濃度(ppm) | 強酸性次亜塩素酸水:20~60 弱酸性次亜塩素酸水:10~60 微酸性次亜塩素酸水:10~80 |
100~10,000 |
自然環境への負荷 | 少ない | 多い |
トリハロメタン | つくらない | つくる |
臭い | 水道水と同じくらい(ほとんどない) | 塩素臭が強い |
消毒対象 | 食品添加物に指定されているが、最終食品になる前に除去しなければならない | 食品添加物に指定されているが、最終食品になる前に除去しなければならない |
コスト | 高い | 安い |
この表で注目したいのは、塩素濃度です。
厚生労働省は、次亜塩素酸水を「強酸性」「弱酸性」「微酸性」の3つにわけていて、それぞれ表のとおりの塩素濃度基準を設けています。
次亜塩素酸ナトリウム液の塩素濃度は、桁違いに高いことがわかります。
塩素の濃さが、次亜塩素酸ナトリウム液の危険性の高さにつながっています。
次亜塩素酸ナトリウム液から発生するトリハロメタンは、発がん性の恐れがあります。
トリハロメタンは、塩素と有機物が反応して生まれるので、塩素濃度が高い次亜塩素酸ナトリウム液で発生し、薄い次亜塩素酸水では発生しません。
浄水場では塩素を使っているので、どうしても水道水にトリハロメタンが含まれてしまいます。
それで水道法でトリハロメタンの基準値が決まっています。
基準値以下であれば、健康被害はないと考えられます。
コストは、次亜塩素酸ナトリウム液のほうが安価です。次の章で詳しい金額を紹介します。
次亜塩素酸ナトリウム液の商品紹介
市販の製品では、次亜塩素酸ナトリウム液のほうが有名です。次のような製品があります。
- ハイター、キッチンハイター(花王)
- ブリーチ、キッチンブリーチ(ミツエイ)
- カネヨブリーチ、カネヨキッチンブリーチ(カネヨ石鹸)
ハイターは1,500mlで300~400円(1ml当たり0.2~0.27円)ほどです。
次亜塩素酸水には有名商品がありませんが、価格は4,000mlで5,000円(1ml当たり1.25円)ほどです。ハイターよりかなりコスト高です。
ただ次亜塩素酸水は、製造機が市販されていて価格は1万円ほどです。製造機があれば、水道水と食塩で次亜塩素酸水をつくることができます。
次亜塩素酸ナトリウム液の危険度と濃度の求め方
次亜塩素酸ナトリウム液を使うとき、濃度を間違えると害を及ぼすことがあります。
花王は、ハイターを使うとき、次の点に注意するよう呼び掛けています(*6)。
- 体調がすぐれない人は使わない
- 原液で使わない(薄めて使う)
- 熱湯で使わない
- 液が目、皮膚、衣類につかないようにする
- 使用時はゴム手袋を使う
- 他の洗剤と一緒に使わない
- 酸性タイプの製品に混ぜると、有毒な塩素ガスが発生する
目に入ると失明の恐れがあります。
花王は、ハイターが目に入ってしまったら、ただちに流水で15分以上流し、痛みや異常がなくても眼科にかかるよう勧めています。
ハイターを飲み込んでしまったら、「吐かずに」口をすすぎ、コップ1~2杯の牛乳か水を飲み、医師に相談して下さい。
0.05%のつくり方
ハイターなどの次亜塩素酸ナトリウム液を殺菌剤として使うときは、一般的に0.05%の濃度で使います。
ハイターとキッチンハイターは、原液が6%ですので、0.05%に薄めるには次のようにします(*7)。
計算式はこのようになります。
- 25mlのハイター原液(6%)には、次亜塩素酸ナトリウムが1.5ml(=25ml×6%)入っている
- 水3リットル(=3,000ml)に、次亜塩素酸ナトリウム1.5mlを加えるので、濃度が0.05%(≒(1.5ml÷3,001.5ml)×100)になる
*6:https://www.kao.com/jp/haiter/hit_kitchen_00.html#detail
*7:https://www.kao.com/jp/soudan/topics/topics_107.html
まとめ~効果とコストを考えて使い分けて
新型コロナなどのウイルスや細菌を殺菌するとき、次亜塩素酸水と次亜塩素酸ナトリウム液は、どちらも有効とされています。
家庭で使うには、危険度が低い次亜塩素酸水のほうが使い勝手がよいのですが、コストが高いという欠点があります。
効果とコストを考えて、賢く使い分けたいですね。