いえ、空気清浄機や加湿器は新型コロナウイルス対策にはなりません。
空気清浄機における空気清浄は、ファンによって室内の空気とともに浮遊物・異物(チリやホコリ、花粉、ハウスダスト、PM2.5など)を吸い込み、内部に搭載されているフィルタに吸着し、清浄化された空気を室内空間に吹き出し、戻すという仕組みになっています。
「ウイルス対策になり得るか」を考える場合、次の2点が重要なポイントになります。
- ウイルスを不活化(感染できない状態に)するか
- ウイルスを完全隔離できるか
空気清浄機の機能によって、この2つの内どちらか一方でもできていれば「新型コロナウイルス対策になり得る」ということになりますが、どちらもできていなければ対策になり得ないことは明らかです。
[ウイルスを不活化するか]
空気清浄機あるいは空気清浄機に搭載されるイオン発生式の機能(ナノイーやプラズマクラスター、光速ストリーマなど)がウイルスを不活化したり、菌を殺菌しないことが強いエビデンスで明らかになっています。
詳しくは「空気清浄機とオゾン発生器の違い」をご覧下さい。
[ウイルスを完全隔離できるか]
先にも書きましたが、空気清浄機という機器は「ファンによって室内の空気とともに浮遊物・異物を吸い込み、内部に搭載されているフィルタに吸着し、清浄化された空気を室内空間に吹き出し、戻す」という仕組みになっています。
室内空間の一部のウイルスが、空気清浄機内部に一時的に吸い込まれることはあったとしても、そこにとどめておくことはできません。
理由は、機器内部のフィルタでウイルスほど小さなものを継続して吸着することは不可能だからです。また、空気を循環させるという構造上、室内空間と空気清浄機内部は常に物理的につながっており、隔離環境を形成することはできません。よって、「ウイルスを隔離する」ことは不可能です。

菌やウイルスはとても小さい
シャープのナノイーやパナソニックのプラズマクラスター、ダイキンの光速ストリーマなど以外にも、空気清浄機のなかには、「集じんフィルターにかかった異物にイオンを照射する◯△方式(*)によってウイルスを抑制する」と謳っている製品もあります。
これらの効果が0%とまでは言いませんが、残念ながらほとんど効果が期待できないというのが実態です。
*名称はメーカーによって異なる。
間違っても、「室内空間全体のウイルスを抑制してくれる」などと勘違いされないようにして下さい。
これを言ったら身も蓋もない話かもしれませんが、空気清浄機でウイルス対策は考えず、窓を開け外気を導入するなど換気を行ったほうが100倍効果が高いです。
一方、加湿器は機器内部に収容されている水分を空気中に放出し、加湿します。簡単に説明すれば「ストーブにヤカンを置き、そのヤカンからの蒸気で湿度を上げる」このような構造です。たしかにウイルスの種類によっては温度や湿度が低いより、高温多湿の方が活発化しないという研究データはありますが、「活発化しない」ことと「ウイルスを不活化する」ことは別の話ですし、「多湿」についても、それは決して家庭用の加湿器でどうこうできるレベルの話ではありません。
また、ウイルスの種類によっては温度や湿度が低い方が活発化するケースもあり、「高温多湿にすればウイルス対策になる」と安易に考えることは思わぬリスクを高める可能性もあります。

ほぼ日刊イトイ新聞「頭がすっきりする風邪の話」から
画像にある「岩田」とは、あのダイヤモンド・プリンセス号の動画で一躍時の人となった感染症の専門家中の専門家である岩田健太郎先生(神戸大学大学院医学研究科教授)です。
なにも岩田健太郎先生を話しに持ち出さずとも、ウイルスに対して空気清浄機や加湿器が対策になり得るなどと考える医師はまずいません。万が一、そのような医師がいた場合、間違いなく「トンデモ」な医師なのでご注意下さい。
※もし空気清浄機や加湿器に明らかな殺菌消毒効果が認められているのであれば、救急車などの緊急車両や特殊清掃などの過酷な現場においても導入されているはずですが、当然ながらそのような事実はありません。
オゾン脱臭機能が搭載されている空気清浄機でもダメですか?
「消臭」とは、ニオイを一時的・局所的に除去または緩和することであり、「脱臭」とはニオイの根本原因そのものにアプローチして化学的に叩く(分解など)ことで、その効果を継続的なものにします。また、化学的脱臭法はオゾンだからこそなし得る方法だと言えます。
何故、オゾンはニオイを元から消し去ることができるのかというと、そもそもニオイの元はだいたいにおいて「菌の増殖」が原因です。
その菌をオゾンが分解することで菌が死ぬため、ニオイがなくなるというわけです。
つまり、「脱臭とは悪臭の原因菌を殺すこと」なのです。
たとえば、富士通ゼネラルの「ACS-71D」という空気清浄機にはオゾン脱臭機能が搭載されています。

富士通ゼネラルの「ACS-71D」オゾンユニットの説明
しかし、残念ながらこれらのオゾン脱臭機能にほとんど効果はありません。
一般的な家庭用オゾン発生器と呼ばれる製品のオゾン発生量は概ね0.5〜5mg/hr程度です。
有人環境下で使用するため安全性の配慮からかなり少量のオゾン発生に抑えられています。
そのため、家庭用オゾン発生器の効果は限定的です。
たとえば、下駄箱やクローゼット、トイレなど狭い空間ではある程度の効果はありますが、リビングなどの広めの部屋であれば、オゾン発生器周辺以外にオゾンの殺菌消毒効果が及ぶことはありません。
空気清浄機に搭載されているオゾン脱臭機能は、この家庭用オゾン発生器のオゾン発生量以下(0.1mg/hrなど)ですから、「ほとんど効果はない」と考えるのが自然でしょう。
最後に、まとめますと、新型コロナウイルスに限らずウイルスや菌に対して、空気清浄機(脱臭機能含む)や加湿器は効果がありません。
ただ、空気清浄機や加湿器の役割は異なるものの、それはそれで人の健康維持に大いに貢献していることもまた事実です。
付随機能に過度な期待はせず、「空気清浄は空気清浄機」「加湿は加湿器」「空間除菌はオゾン発生器」など、機器本来の目的をよく理解し、それぞれを併用するのが最善の衛生管理なのです。
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