コロナの誤情報や怪しい説は「エビデンスを確認する習慣」で排除できる

コロナの誤情報や怪しい説は「エビデンスを確認する習慣」で排除できる

新型コロナのワクチンについて、次のような誤情報、怪しい説が出回っています(*1)。

  • 接種すると不妊になる
  • 流産する
  • 遺伝情報が書き換えられる
  • コロナ感染する
  • マイクロチップを腕に埋められて管理される

また、新型コロナウイルスが26度のぬるま湯で死滅する、という怪情報もあります(*2)。

もし、これらの情報を一瞬でも信じたら、誤情報を見抜く力を身につけたほうがよいでしょう。なぜならコロナ情報は健康や命に関わることがあるからです。

そして、「そのような誤情報を信じるはずがない」と思っている人も警戒してください。
情報スキルが身についていないのに、だまされない自信を持っている人ほど、意外に簡単に巧妙な偽情報を信じてしまうからです。

だまされないための情報スキルとは、常にエビデンスを確認する習慣です。

*1:https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210715/k10013140371000.html
*2:https://eltes-solution.jp/202004-03/

エビデンス(科学的根拠)は確かであることを保証する

エビデンス(科学的根拠)は確かであることを保証する
エビデンスは「証拠、根拠」と訳されますが、現代的には「科学的根拠」という意味で使われます。
この場合の科学は自然科学のことで、自然科学とは再現可能な観察や実験に基づいて自然界を理解する営みです(*3)。ある情報にエビデンスがあれば、その情報は誰でも事実であることを確認できるので正となります。
エビデンスはその情報が確かであることを保証します。

エビデンスのもう1つの効果は、「この情報にはエビデンスはないが正しい」という説明を許さないことです。

もちろん、普段の生活において「この情報にはエビデンスはないが正しい、という説明は許さない」といい続けていると家族や友人からうとまれてしまいます。
しかし、コロナ禍のような深刻な事態の下では、重要事項に関する嘘や間違いは許されないので「エビデンスはないが信じてくれ」という主張を排除したほうがよいでしょう。

*3:https://ocw.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2016/01/ScienceLiteracy1-2009-Text-01.pdf

エビデンスは医療で始まりさまざまな分野に広がった

エビデンス・ベースド・メディシン
エビデンスの考え方は医療分野で最初に広まりました(*4)。エビデンス・ベースド・メディシンといい、日本の医療現場でもEBMで通用します。

科学的根拠に基づいた医療という意味ですが、この言葉に違和感を覚える人もいるでしょう。「では、科学的根拠に基づかない医療などあるのか」と。

実は、科学的根拠に基づかない医療はつい最近まで横行していました。
例えば日本政府は、ハンセン病対策で、長らくエビデンスに基づかない政策を続けていました。その間違った政策を取り決めていた「らい予防法の廃止に関する法律」は1996年まで存続していました。その年に同法は廃止され、厚生大臣(当時)が謝罪をしたほどです(*5、6)。

また、かつて皮膚の傷は、消毒液をかけてガーゼを張って乾かして治すのが医療の常識でした。ところが今は、傷を流水で流して洗浄し、傷口をずっと湿らせることができる保護パッドを張ることが正しい治療法になっています(*7、8)。消毒液をかけることも乾かすことも傷の治りを遅くすることがわかったからです。

傷に消毒液をかけて乾かしていた時代、医療従事者の誰も、この治療法にエビデンスがあるのかどうか確認していなかったことになります。

EBMはこうした医療上の失敗が積み重なってようやくできあがった概念です。
そしてエビデンスを重視する考え方は、さまざまな分野に広がっています。マーケティングでもエビデンスを重視しますし、経済産業省の政策立案でもエビデンスを求めています(*9、10)。

*4:https://www.soumu.go.jp/main_content/000545263.pdf
*5:https://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/01/h0131-5/dekigoto.html
*6:http://www.hansenkokubai.gr.jp/faq/policy.html
*7:https://www.osakacity-hp.or.jp/juso/about/departments/surgery/scar.html
*8:https://style.nikkei.com/article/DGXKZO58440800U0A420C2W10600/
*9:https://kakuzukejapan.or.jp/torikumi/
*10:https://www.meti.go.jp/shingikai/others/seisaku_hyoka/pdf/029_06_00.pdf

誤情報は深刻な脅威

誤情報は深刻な脅威

出典:https://www.asahi.com/articles/ASP7J42P2P7JUHBI007.html

冒頭で、コロナ情報は健康や命に関わると述べましたが、これは決して大袈裟な表現ではありません。アメリカ政府は2021年7月に、コロナワクチンを巡る誤情報が深刻な脅威になっていると指摘し、さらにその元凶はSNSであると批判しました(*11)。
深刻な脅威とは、誤情報を信じてワクチン接種を拒む人が出ていることです。

*11:https://www.asahi.com/articles/ASP7J42P2P7JUHBI007.html

アメリカ政府がSNS会社とマスコミに情報のコントロールを要請

アレルギーなどの理由でワクチンを打てない人を除いて、健康な人がコロナワクチンを打つことは、本人のためにも社会のためにもなることは事実であり、これにはエビデンスがあります(補足説明を参照)。
したがって、誤情報によってワクチンを拒否する人が増えるのは、本人と社会のためにならず深刻な脅威となります。

アメリカ政府は、SNSを運営する企業に誤情報を拡散させないよう求め、マスコミには科学者の考えを記事などで伝えるよう要望しました。科学者の考えは、最高のエビデンスだからです。
アメリカ政府が全国民にエビデンスを重視するよう呼びかけているわけです。

補足説明

●コロナワクチンを接種することが本人と社会のためになる、ことが事実であるエビデンスについて

厚生労働省は以下のサイトで、コロナワクチンに感染症の発症を予防する効果があり、重症化を予防する効果が期待される、と明言しています。発症予防効果は本人のためになり、社会のためになるのは明らかです。
参考 新型コロナワクチンQ&A〜ワクチンの効果厚生労働省

「効果がある」と「期待される」という表現に注意してください。厚生労働省はエビデンスの強さによって表現を使いわけています。
十分に確かなエビデンス(強いエビデンス)がある発症予防については、効果があるとしています。重症化の予防効果のエビデンスは弱いので、文章表現も期待されると弱めています。

そして、コロナワクチンの接種が進むと、集団免疫をつくることができるのかどうかについては、厚生労働省は以下のサイトで「まだわからない」と正直に伝えています。
参考 新型コロナウイルスワクチンの接種について厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部 参考 集団免疫とはなんですか?厚生労働省

ワクチンを打つ人が増えれば集団免疫ができるかもしれないという予測や希望があろうとも、エビデンスがそろっていないときは「わからない」とするのは正しい表記といえ、さらにエビデンスを尊重していることもわかります。

ただここで、厚生労働省がいっているというだけでエビデンスになるのか、という疑問が浮かびます。
厚生労働省が提供する情報は、国内の感染症学の専門家たちが携わっていると考えられるので、かなり強いエビデンスといえるでしょう。

フェイスブックの影響力と責任ある行動

フェイスブックの影響力と責任ある行動
SNS世界大手のフェイスブックは、アメリカ政府から、誤情報を拡散させているツールであると名指しされました(*11)。
アメリカ政府は、フェイスブックに投稿されたコロナワクチン関連の誤情報の65%はわずか12人によって拡散された、とも指摘しています。SNSの負の部分がもろに出た形です。

ただフェイスブックはコロナ誤情報を撲滅することに力を入れています(*12)。
フェイスブックは「コロナワクチン接種を妨害する投稿を禁止し、虚偽投稿も許容しない」との声明を出したうえで、実際に年少者接種に反対する投稿を次々削除しています。
この年少者接種に反対するグループは悪質で、自治体に抗議の電話を集中的にかけて業務を妨害したり、自治体職員を脅迫したり、用意した文章を繰り返し読み上げるといった嫌がらせをしたりしています。フェイスブックで「所かまわず抗議しよう」と呼び掛けていました。これは日本で起きたことです。

*12:https://www.jiji.com/jc/article?k=2021062800717&g=eco

なぜ人は誤情報を信じてしまうのか

なぜ人は誤情報を信じてしまうのか
「エビデンスはあるのか」と問い続けなければならないのは、人が簡単に誤情報を信じてしまうからです。
誤情報を信じるメカニズムはかなり解明されていて、次の効果・現象によって人は嘘っぽい話でも簡単に受け入れてしまいます。

  • バーナム効果(*13)
  • ウィンザー効果(*14、15)
  • ハロー効果(*16)
  • エコーチャンバー現象(*17)

●バーナム効果
バーナム効果とは、多くの人に当てはまる特徴に対し「それは自分にこそ当てはまる」と受け取る傾向のことです。
バーナム効果を受けやすい人は例えば「あなたには隠れた能力がある」といわれたとき、「そう、私には隠れた能力がある」とポジティブに肯定してしまいます。
バーナム効果が出やすい人ほど、占いや超常現象や合理的でない現象を信じやすくなる傾向が確認されています。

●ウィンザー効果
ウィンザー効果とは、第3者の評価を信じてしまう現象です。口コミ情報を重視する傾向は、口コミが第3者情報であり信憑性が高いと感じることで起きます。SNSは第3者評価の「宝庫」といえ、ウィンザー効果を生みやすいツールです。

第3者が持つ情報をエビデンスとして活用することは間違った行動ではないのですが、その第3者が信用に足る人かどうかチェックしないことには、その人の情報をエビデンスとすることはできません。
ただ、その第3者が信用に足る人だとしても、その人の情報をエビデンスとして採用できない場合があります。それはハロー効果が邪魔をするからです。

●ハロー効果
ハロー効果とは、目立ちやすい特徴に引きずられて評価を下してしまうことで、バイアス(偏見)の一種です。
例えば、政治評論家として定評がある人が、医学について語ったとします。このときその医学の話を信じてしまうのは、ハロー効果のせいです。政治評論家のスキルと医学を語るスキルは別物なので、権威のある政治評論家がいっているからといってその医学情報にエビデンスがあるとはいえません。
ハロー効果にだまされないようにするには、情報発信者がその情報の専門家であるかどうか調べなければなりません。

●エコーチャンバー現象
エコーチャンバー現象とは、価値観や思想が似た者が集まって話をしていると強い共感が生まれ、誤情報を簡単に信じやすくなることです。例えば、自分の両親も兄弟姉妹も友人も「Aが正しい」と主張していたら、Aは正しいのだろうと思ってしまう現象です。
そしてSNSは価値観や思想が似た人たちをグループにしやすいので、エコーチャンバー現象を生じさせやすいコミュニケーションの場と考えられています。

*13:https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=2140&item_no=1&page_id=29&block_id=40
*14:https://naritas.jp/wp1/?cat=2777
*15:https://www.taishukan.co.jp/hotai/media/blog/?act=detail&id=236
*16:https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11914.html
*17:https://kotobank.jp/word/%E3%82%A8%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%81%E3%82%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC%E7%8F%BE%E8%B1%A1-1812458

罠にはまらないためにエビデンスが必要

誤情報を信じさせるメカニズムはかなり巧妙で、これらの罠にはまらないようにしながら事実にたどり着くことは並大抵のことではありません。
だからエビデンスが必要になります。

情報発信者に向かって「エビデンスはあるのか」と問い、「エビデンスはない」と返ってきたら「それでは信用できない」と判定します。
それだけでも足りず、「エビデンスはある」と返ってきても、そのエビデンスが確かなものかどうか確認しなければなりません。

「確かにそれはエビデンスになる」または「それだけではエビデンスと呼ぶには足りない」と判定するのは、最後は自分自身になってしまうので、そのやり方について解説します。

エビデンスには強い弱いがある

エビデンスには強い弱いがある
そのエビデンスが「真のエビデンス」と呼べるのかどうか判定するには、強弱をチェックする必要があります。
真実に近いほど強いエビデンスと呼び、真実から遠ざかると弱いエビデンスと評価されてしまいます。
エビデンスの強さを決めるのは、自然科学で使わている手法とツールです。すなわち、観察、実験、データ、統計です。

エビデンスの強さを決めるのは観察、実験、データ、統計、そして信頼性

「Aが正であるとするエビデンスはあるのか」と問われて次のいずれかで回答できたら強いエビデンスといえます。

  • 「観察の結果、Aだった」
  • 「実験でAと確認できた」
  • 「データを分析したらAだった」
  • 「統計学的にAは正である確率が相当高い」

観察、実験、データ、統計で正しいと証明できたら、次もまた正しいと証明できるので、これらはエビデンスを補強します。
コロナ対策においても「これはエビデンスがある除菌法である」という人がいたら、観察結果、実験結果、データ、統計学的な計算を示してもらう必要があります。

そしてもう1つ重要なのが、情報発信者の信頼性です。
例えば、見ず知らずの人が「アルコール消毒はコロナ対策になる」といっても信用できませんが、厚生労働省が同じことをサイトで紹介していたら信用できます。それは厚生労働省は信頼できる組織なので、「確かなエビデンスがあってアルコール消毒を評価しているのだろう」と推測できるからです。

厚生労働省も完璧ではないがコロナ情報のエビデンスは強いといえる

厚生労働省が公表しているコロナ関連の情報は、「しっかりしたエビデンスがある」と「推定」できますが、だからといって「絶対的なエビデンスがある」と「断言」することはできません。
なぜなら、残念ながら厚生労働省もミスや間違いをおかしているからです(*18、19、20)。コロナ対策でも、厚生労働省が運営した感染情報を知らせるスマホアプリ「ココア」の不具合が問題になりました(*21)。

それでも厚生労働省が出すコロナ情報は強いエビデンスを持っている、といえるのは、同省の官僚たちが世界保健機関(WHO)や国内外の感染症学の専門家などから情報を集めているからです。コロナに関する情報収集能力では、厚生労働省は国内トップクラスといえるでしょう。

また、国立感染症研究所のサイト「新型コロナウイルス感染症関連情報ページ」も強いエビデンスを持つ情報を提供しています。

参考 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連情報ページ国立感染症研究所

ただ、国立感染症研究所の情報は専門用語が多用されているなど、読みにくい欠点があります。エビデンスを強化するには専門領域を掘り下げていかなければならないので、一般に人にとって難解になる欠点があります。

*18:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_03463.html
*19:https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/100430-02.pdf
*20:https://www.mhlw.go.jp/bunya/iyakuhin/yakugai/data/jugyou-02.pdf
*21:https://www.nikkei.com/article/DGKKZO71165970Z10C21A4EA1000/

易しく解説してくれる新聞報道は頼りになる

難解さを解決してくれるのが、新聞報道です。次の新聞社と通信社が提供しているコロナ情報のエビデンスも強いといえます。しかもこれらのメディアは、大体高校生が理解できる程度に噛み砕いて解説しています。

  • 朝日新聞
  • 読売新聞
  • 毎日新聞
  • 共同通信
  • 時事通信
  • 日本経済新聞

新聞社・通信社の情報のエビデンスが強いのは、記者たちがコロナに関する記事を書くとき、厚生労働省や専門家に取材をしているからです。記事には「厚生労働省によると」や「○○に詳しい○○大学病院の○○教授によると」と書かれてあり、これは強いエビデンスの証になります。

テレビ局の情報も信用してよいといえますが、テレビ番組ではよく「朝日新聞によると厚生労働省が○○といっている」といったように、新聞社・通信社の記事を引用することがあります。これは間接情報になるので、エビデンスは弱くなってしまいます。
地方紙のニュースも、共同通信や時事通信の記事を使うことが多いので、エビデンスが弱くなることがあります。

自分の常識も活用する

エビデンスの強弱は、自身の常識で判断できる部分もあります。

例えば、東京大学病院が実施しているコロナ対策は、「あの東大なのだからエビデンスは強いといえるだろう」と考えるのは正しい判断です(*22)。
同じ医療従事者でも、クリニックの医師が自身のブログでエッセイのようにコロナ対策について語っていたら、「東京大学病院のエビデンスより弱いかもしれない」と疑うのはやむを得ません。

エビデンスの強さと弱さをチェックする習慣をつけると、コロナに関する新説が出てきたときに「誰が、どの機関がいっているのか」と自問する癖がつきます。
そしてその新説を唱えている人や機関をグーグルなどで調べてみてください。そうすると肩書や略歴や機関の性質がわかるので、正しい情報を発しそうかどうか推測できます。

*22:https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/covid-19/pdf/dayori99_2-3.pdf

まとめ~エビデンスは絶対ではないが今のところ最良

ここまでエビデンスを重視する意義を解説してきましたが、最後にエビデンスの落とし穴を紹介します。
悪意ある者が、エビデンスを重視する社会の流れを悪用して、エビデンスを捏造することがあります。

2020年に、イギリスとアメリカの計2つの医学雑誌がコロナ治療に関する研究論文の掲載撤回を発表しました(*23)。2つの論文の著者は同じ人物で、1つの論文では、ある薬がコロナ治療に効果がないとする内容でした。ところが論文のなかでデータを提供したと紹介されている病院が、データを提供していなかったことがわかりました。著者がデータを捏造していたのです。
これは、専門家なら簡単にエビデンスを捏造できることを示しています。

またイギリスでは、コロナ感染の陰性証明書を偽造して飛行機に搭乗した者がいます(*24)。これは飛行機会社が陰性証明書をエビデンスとして利用していたことを悪用したものです。

エビデンスは絶対ではありません。
しかし今のところ、エビデンスでコロナ対策をしていくしかありません。エビデンスを最良のツールと考えながら、常に用心していく姿勢が必要になります。

*23:https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20200612/pol/00m/010/006000c
*24:https://forbesjapan.com/articles/detail/37849

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