高齢の親に教えてあげて「コロナ・デマにだまされないで」と

高齢の親に教えてあげて「コロナ・デマにだまされないで」と

女性A「政府がマスクに薄めたコロナを染み込ませているから、コロナ感染者は絶対にゼロにならないらしいよ」
女性B「やっぱりそうなんだ」
この会話は、善良そうな2人の中高年の女性が、札幌のハイキングコースで交わしていたものです。ただ両人とも真顔でした。

新型コロナウイルスについては専門家でもわからないことが多く、そのため有効なワクチンや効果的な治療薬が開発されたものの、100%完璧というわけではありません。
そのためでしょう、コロナ・デマやワクチン・デマが巷(ちまた)に広がってしまいました。

コロナ・デマは行動変容を引き起こす力を持っていて、「ならばマスクをつけなくてよいな」「じゃあワクチンは打たない」といった行動を取る人を生む可能性があります。
コロナ禍では、デマは実害を生みかねません。

高齢者はデマに弱い傾向にあるので、もし高齢の親がおかしなことを口走ったら、注意してあげてください。
ただ、40代こそコロナ・デマに弱いというデータもあるので、若い人も油断は禁物です。

厚生労働省が全否定する7つのデマ

コロナ・デマや、新型コロナワクチン(以下、ワクチン)に関するデマがこれほど流布していると、厚生労働省がきちんと「これは嘘です」というべきだと思いますが、同省はせいぜい「現在は~ということはない」「科学的な根拠はない」というくらいです。
歯切れが悪い、と感じる人もいるはずです。

ただこれは仕方がないことかもしれません。なぜなら、正しいことを「正しい」と証明することは比較的容易ですが、嘘を「嘘だ」と証明することは難しいからです。
例えば「ゴジラは地球のマントルのさらに奥にいる」という嘘を、嘘であると証明することは困難です。人類はマントルの奥を調べることができないからです(*1)。

そのため、証明できたことしかいってはいけない厚生労働省は「コロナ・デマは嘘だ」とは断定できないのです。
しかしその厚生労働省でも、次の7つのデマについては全否定しています(*2)。

<7つのデマと厚生労働省の見解>

【デマ1】ワクチンを接種して多くの人が亡くなっているのは本当か
【厚生労働省の見解】ワクチンの「接種が原因で」多くの人が亡くなったことはない。ただ新型コロナワクチンを「接種したあとに」亡くなった事例は報告されている。

【デマ2】ワクチンを接種すると不妊になるのか
【厚生労働省の見解】その科学的な根拠はない。ワクチン接種で流産率は上がっていないし、妊娠しにくくなる根拠も確認されていない。

【デマ3】ワクチンで不正性器出血や月経不順が起きるのか
【厚生労働省の見解】現在使用されているワクチンはmRNAワクチンというが、これが直接的に不正性器出血や月経不順を起こすことはない。

【デマ4】ワクチンを接種した人が変異株に感染すると重症化しやすくなるのは本当か
【厚生労働省の見解】現在までに、そのような報告はない。

【デマ5】ワクチン開発では通常の臨床試験や治験が省略されているというのは本当か
【厚生労働省の見解】ワクチンは、医薬品開発に必要な臨床試験や治験を経て世界中で承認されている。

【デマ6】現在使用されているワクチンは、臨床試験が終わっていないというのは本当か
【厚生労働省の見解】ワクチンは臨床試験で、有効性と安全性に関して厳格な評価が行われたあとに承認されている。そのうえで、効果の持続性などを確認するための臨床試験の一部が継続されている。

【デマ7】ワクチン開発の段階で行った動物実験で、すべての動物が死んだのは本当か
【厚生労働省の見解】ワクチンの実験動物が、ワクチンの毒性で異常な死を遂げたという事実は確認されていない。

「それは嘘情報だ」とは断じていませんが、普通、厚生労働省はここまでいわないので、全否定していると考えてよいでしょう。

*1:https://www.jamstec.go.jp/mare3/j/mdp/
*2:https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/truth/

6つのデマを「デマだ」と言い切る自信はありますか

コロナ・デマで恐いのは、「デマにだまされるわけがない」と思う油断です。
自分はニュースをよくみるほうだし、必ずエビデンスがあるかどうか確認している、という人は、大抵は「デマにだまされるわけがない」と考えます。それだけに、自分が信じてしまったことに対して、「デマのはずがない」と思うようになってしまいます。

心理学者で筑波大学教授の原田隆之氏は、コロナ・デマを信じない人と信じる人の傾向を調べました(*3、4)。
全国の1,000人に、次の6つのコロナ・デマについて、信じるか、信じないか尋ねました。

  1. ワクチン接種により不妊が起きる
  2. ワクチン接種すると遺伝子が組み換えられる
  3. 卵巣にワクチンの成分が大量に蓄積される
  4. ワクチン接種すると死亡リスクが高くなる
  5. ワクチン接種すると体から毒素が漏れ出して周囲の人にも悪影響を及ぼす
  6. ワクチンにはマイクロチップが含まれていて、行動の監視をされるおそれがある

被験者(1,000人の人たち)には「デマ」とは伝えていませんが、この6項目はいずれもデマです。
被験者には上記の6項目について、信じる度合いを次のように点数化してもらいました。

  • そう思う:4点
  • ややそう思う:3点
  • あまりそう思わない:2点
  • そう思わない:1点

6項目はすべてデマなので、正解は6点(=6項目×そう思わない1点)ですが、平均点はなんと9.68点でした。
一番信じられてしまったデマは「4、ワクチン接種すると死亡リスクが高くなる」で、一番信じられなかったデマは「6、ワクチンにはマイクロチップが含まれている」でした。

*3:https://gendai.ismedia.jp/list/author/takayukiharada
*4:https://news.yahoo.co.jp/byline/haradatakayuki/20210924-00259741

デマを信じた人の割合が多かったのは40代

原田氏はこの調査結果を統計学的に分析し、人々に次のような傾向があることを導き出しました。

<コロナ・デマに関する人々の傾向>
●デマを信じない人の率が最も高かったのは70代以上
●デマを信じてしまう人の率が最も高かったのは40代
●コロナ情報をユーチューブで集める人ほどデマを信じやすい
●日常的な不安が強いのに、コロナへの不安が小さい人ほどデマを信じやすい
●反科学的態度や疑似科学信奉度が高いほどデマを信じやすい
●政府への信頼感が低い人ほどデマを信じやすい

70代以上が最もデマを信じず、40代にデマを信じやすい傾向があることがわかりました。
高齢の親に正しい情報を提供しなければならない若い人は、もっとしっかりしなければならないでしょう。
コロナ情報をユーチューブで集める人ほどデマを信じやすい傾向があることから、ユーチューブを多用する若い人は注意しなければなりません。

興味深いのは、日常的な不安が強いのにコロナへの不安が小さく、その結果デマに引っかかりやすくなっているという傾向です。
原田氏は、普段から不安がちな人は、安心したい気持ちから、正しくないコロナ楽観論を信じるようになり、それがコロナ・デマを信じる傾向を強めていると分析しています。

「SNSに注意を」といわざるをえない

SNSは今や、多くの人にとって重要な情報源であり、政府や自治体ですらSNSで重要な情報を発信しています。
そのため「コロナ情報をSNSで集めないで」とはなかなかいえないのですが、それでもコロナ・デマにおいては「SNSに注意を」といわざるをえないでしょう。

ツイッターには「ワクチン不妊」デマが11万件も

日本経済新聞と東京大学が2021年1月からの7カ月間、SNS上のワクチン情報を調べたところ、ツイッターに「ワクチン接種が不妊につながる」というデマが11万件も投稿されていたことがわかりました(*5)。
しかも11万件のうちの5万件は、わずか29のアカウントの投稿が切っ掛けになっていました。
つまり、29人以下の人が「ワクチン接種が不妊につながる」とツイートしただけで、デマの個数が5万個に膨れ上がったというわけです。
また、「ワクチン接種が不妊につながる」というツイートに対し、「恐ろしい」「ワクチンを打ちたくない」というコメントが寄せられていることもわかりました。
ツイッター上のワクチン・デマが、ワクチン拒否という行動を引き起こしているかもしれません。

原田氏の調査では、ユーチューブで情報を集める人ほどコロナ・デマを信じやすいことがわかっているので、やはりSNS情報には十分注意する必要があります。

*5:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC03A6M0T00C21A8000000/?n_cid=NMAIL007_20210810_A&unlock=1

ユーチューブは猛省して「反ワクチンを禁止」とした

SNSの運営会社のなかには、コロナ・デマの震源地になっていることを反省する動きもみられます。
ユーチューブは2021年9月、新型コロナワクチンを含むすべてのワクチンについて、これを否定する動画の投稿を禁止すると発表しました(*6)。
そして実際に、反ワクチン運動をしているケネディ元大統領の甥(おい)のユーチューブ・チャンネルを停止しました。
ユーチューブが反ワクチン動画を禁止した背景には、人々がSNS各社に対し、健康に関するデマ情報の拡散防止に熱心でないと批判していることがあります。
SNS各社には猛省が求められています。

*6:https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-usa-youtube-idJPKBN2GP1MY

なぜ高齢の親が危険なのか「コロナ情報ケアを」

高齢者がコロナ・デマを信じてしまうのは、心理学的に説明できます。
原田氏は、人にはそもそも、デマを信じない防衛メカニズムが備わっていると指摘します。怪しい情報に「怪しい」と思えるのは、この防衛メカニズムが働いているからです(*7)。

しかし、社会的に分断されている人は、この防衛メカニズムが働きにくくなっています。社会的に分断されると不安な気持ちが募り、安心させてくれる情報があるとすぐにそれにすがってしまいます。
このとき、安心情報こそ正しい情報であると信じる心理が働いてしまいます。そうなると、安心情報を否定する情報は、嘘情報と認識してしまいます。

<社会的に分断されている人がデマを信じるメカニズム>
●社会的に分断される

●不安になる

●デマでも安心させてくれる情報なら信じてしまう

●安心情報(デマ)を否定する情報こそ嘘だと思ってしまう

原田氏は、社会的に分断されている人がデマを信じ、デマを否定する情報を嘘情報と認識するのは、自分を虐げてきた社会に反旗を翻す行動であると分析しています。

独居のお年寄りや、高齢夫婦のみ世帯は、コミュニケーション不足や情報過疎に陥りやすく、社会的に分断されている人になりやすい傾向があります。
自分の親がそのような状態にある場合、しっかり「コロナ情報ケア」をしてあげてください。

*7:https://news.yahoo.co.jp/byline/haradatakayuki/20210622-00244120

まとめ~厚生労働省の情報を頼りにしよう

コロナ・デマやワクチン・デマを回避する最もよい方法は、確かな機関の情報を頼りにすることです。
「確かな機関」には、国立感染症研究所や東大病院などもありますが、最も頼りになるのはやはり厚生労働省です。
厚生労働省のホームページのコロナ解説やワクチン解説は、平易な文章で簡潔に書かれているので理解しやすいからです。
おすすめのサイトは以下のとおりです。

<厚生労働省のおすすめサイト>
●新型コロナウイルス感染症の“いま”に関する11の知識
https://www.mhlw.go.jp/content/000788485.pdf
●新型コロナワクチンについて
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html
●新型コロナウイルス感染症について(総合的なサイト)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html

<もっと専門的な情報を知りたい人におすすめできるサイト>
●新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報(国立感染症研究所)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/covid-19.html
●研究:治療法の早期確立を目指して(東大病院)
https://www.h.u-tokyo.ac.jp/patient/covid-19/

コロナ情報やワクチン情報は、1分1秒を争って入手しなければならないものではありません。
NHKや日本経済新聞などの確かな報道機関の発表を待って対応しても十分間に合います。
コロナとワクチンに関しては「厚生労働省、国立感染症研究所、大学病院、NHKや日本経済新聞などの確かな報道機関以外の情報は信じない」と思っていて間違いないでしょう。

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